コステロ 大好き 4 バカラックを初めて知る

 バイオリズムに支配されて、とてもつらいのですが、心に響くようなこのアルバムを聴いていると、素晴らしいボルドーワインの様に、腹の中に入って来る心地よさに酔いしれてしまい、つらさが和らぎます。
 こう見えて、学生の頃、渋カジに身を包み聴く音楽はヒップなブラックミュージックや、ロックを聴いていた、渋谷系の初期の頃の人間ですが、マストアイテムだった、バート・バカラックは、大嫌いなディオンヌ・ワーイックのせいで、苦手な作曲家で買った事もありませんでした。結局、渋谷系は、非ロック化の一途を辿って行く様な気がして、また、渋谷系邦楽アーティストに全く興味が持てなくなったせいで、急速に離れていくことになりました。あの頃流行った、レアグルーブ(死語)を聴くと痛みが走ります。
 でも、このアルバムに出会って初めて、バカラックの曲の良さに触れたような気がします。コード進行の複雑さメロディのアイデアはよく言われる事ですが、曲が手の加えようの無い程完成しているので、どんな現代的な音でも、バカラックの音楽がリアルに現存し、どんなアレンジも耐えうるという気がします。つまり、不滅な音楽がここにはあって、音楽の深遠さを感じます。20年後に、同じ様に他の歌心のある優れたシンガーに唄われたとしても全く変わらない世界がそこにはあるのではないでしょうか?
 エルヴィス・コステロの歌は、初期の頃は、アメリカンロックを消費するブリティッシュロックの表層的な事象を上滑りするような、ある意味、ユニークで、軽いボーカルだったのが受けた一因だったと思いますが、どんどん、自分のアイデンティティを獲得することで、ボーカリストとして、ロックンローラーとして、今、僕等にリアルな音を聴かせてくれます。海の中でクジラの唄を聴くと、その低い振動や何ともいえない音に、体がビリビリと震えてしまうそうですが、そんな唄をこの人は唄おうとしているのでは無いでしょうか?(大げさかな?)

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